「アパートメント」にお邪魔しました
2016/12/23
誰かとつながりっぱなしはしんどい。だけれどひとりぼっちはさみしい。干渉されたいわけじゃないけど、ときどきふっと、話相手がほしくなる…。
そんな気持ちをわかってくれる人がいるなら、「アパートメント」に来てみてください。
とはいえ私もつい先日、このメディアを知ったばかりの新参者なのですが。
読んでみてほしいな、と顔が浮かぶ人がちらほらいるので、勝手ですが紹介させてほしいんです。
メディアだけど、住処でもある
アパートメントはちょっと変わったウェブメディア。
何人かの作り手さんが曜日ごとに担当を持って、文章や写真や絵を日々更新していきます。他にも「当番ノート」や「アトリエ」など、コンテンツはたくさん。
アパートメントの変わったところは、作り手さんを住人と呼び、サイトを運営する人を管理人と呼び、「編集しない」という方針を持っていること。
そんなすこし不思議なアパートメントの管理人、鈴木悠平さんのおはなしを聞くイベント「表現としての書くこと−sentence lab vol.1」に行ってきました。
誰かの日常が綴られていく
「アパートメントでは、ぼくら管理人が気になった人を”さらって”きて、自分の”部屋”で好きなように書いてもらってます。
くらしの中で生まれる表現や、自分の生活の中で大事にしていることを、自由に書いてもらうんです」
鈴木さんはそんなふうに言いました。
記事を書いてお金を稼ぐようなサイトではなくて、純粋に自分の日常や思いをつむぐ場所。
それがアパートメントなのだそうです。
「ライターだけじゃなくて、たとえば写真家や踊り子、茨城のお米農家さんも書いていて。
その農家さん、やまざきさんは文章にすごく句点が多いんですけど、たぶんこれ、田植えのリズムだと思うんですよ。
そういうくせを直したりするような編集は、まったくしていません」
独特の、ひゃっこい、あたたかい、不思議な泥の感触。
ずぶずぶと、底がないような 足ざわりののち、底らしき層に触れる。普段、硬いアスファルトの上で、立って、歩いて生活している人たちには
それだけでもう、新感触かも。
その人のいとなみが文体に表れる、という鈴木さんの言葉に納得しました。
おとなりさんとの心地よい距離感
けれど、それだと個人のブログと何が違うんだろう…、と思う人もいるかもしれません。
「いまの住人の方につくってもらったコンテンツには、過去に住人だった方からレビューをもらっています。
レビューというか、感想みたいなもの。誰にレビューをお願いするかは、ぼくら管理人が考えています。
住人とレビュアーがやり取りを重ねるうちに、仲良くなってご飯を食べに行くこともあるかも」
書いて終わり、ではなくて、誰かと関係を取り持ってもらえるのは素敵だと思いました。
他にも、絵描きの方と200字小説家の方とのコラボ企画があったり。シェフとパティシエとバーテンダーの3人が、同じ食材を使ってそれぞれの分野で料理をつくってみるイベントがあったり。
部屋に住むのはひとりだけど、おとなりさんにはすぐ会える。
個人で書くのとはまた違った、ゆるりとしたつながりと、押し付けがましくないあたたかさが伝わってきました。
震災をきっかけに、5年
そんなアパートメントができたきっかけは、東日本大震災。
管理人の1人、朝弘 佳央理さんが立ち上げたのだそうですが、当時のこころの経緯がこんなふうに綴られています。
地震が起きた時何してた?
踊りのことはどうするの?
今、何を思ってる?
これから、どうする?
ずいぶん長いこと話しながら、私は、こうして誰かと顔を合わせたかったんだな、味わったことや考えたことを伝えたかったし、聞きたかったんだな、という風にぼんやりと思いました。「毎日、友達が何を思っているのか聞きたいな。」
その時にそう思ったのが、アパートメントの種でした。
それから5年、アパートメントは今日も建っているのです。終わりに、鈴木さんはこう語ってくれました。
「アパートメントの語源は、a-part,『離れて』という意味。
誰もが別々の人生を生きていて、みんな仕切られた部屋で勝手に暮らしている。苦しさの共有はできないかもしれないけど、でもひとりじゃない距離にあなたがいること。
扉を開けてノックすればおしょうゆが借りられる。そんな空間です」
私が感じた「アパートメント」
おはなしを聞いたあと、なぜだかちいさな幸せを感じていました。
現実世界でつながり不足が叫ばれているいま、インターネットの中にこんな場所があり続けていたことが、無性に愛しくなりました。
そのあとすこし、鈴木さんのおはなしを聞きに来た方と、おしゃべりをしたりメッセージを送り合ったりして。
私の将来のはなしも、皆さんのこれからのはなしも、言葉のはなしもいろいろ。
初めて話す方もいたのに、さらりと会話ができたことが印象的でした。
ああ、アパートメントってもしかして、現実にあったらこんな場所なのかもしれない。
同じ空間をすこしの間 共有して、思ったことやちょっと困ったことをぽろぽろと話し合ってみて。
時間になったら、めいめい自分の場所へ帰って行く。わずらわしくないし、無理しなくていい場所。
都会の真ん中・渋谷のイベントに行ったはずの私は、確かにあのときみんなと一緒に、アパートメントの入口に立っていたような気がします。