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ゆいことば

茨城の片隅で大学生をしている、アクティブでちょろい根暗の文章置き場です。

就活

なにもかもうまくいかない日に

立ち止まりたいのに歩き続けてしまうときがある。
身体が疲れ果てていても、もう少し、あと少し、あそこに見える角を曲がるまで、曲がったらまたその先まで。
そんなふうに止まることを先伸ばしにしてしまう。

大抵は、目的地に辿り着けず道に迷っているとき。

この道ぜったい間違ってるよなあって思いながら、でも正しい道もわからずにひたすら歩き続ける。
痛む脚を止めたら疲れが一気に押し寄せてきて、もう歩けなくなるんじゃないかっていう不安に突き動かされている。

そんなときは決まって荷物が重くて、日が落ちて寒くなって、iPhoneのバッテリーも切れかけていて。

方向音痴なので結構な頻度でそうなるんだけど、それが会社説明会の5分前ともなると、もう絶望的な気持ちになる。

都会夕方

なんで事前に確認しなかったんだろう、なんでもっと時間に余裕を持たなかったんだろう、なんでいつもこうなんだろうと涙が出そうだった。
このあたりに会社があるはずなのになんでなんで、と幾度も同じ場所をぐるぐる回った。

なんとか目当てのビルを見つけたときには開始時間を大幅に過ぎていて、静まりかえっているだろう会場に顔を出す勇気は残っていなかった
諦めてビルの裏で泣いた。
その会社がある東京まで、なんのために2時間と4,000円かけて来たんだろうとやるせなくなった。

もともと、少し疲れていたんだと思う。
ちょうどバイトも大学も休みの時期で、就活しかすることがなかった。
評価される場面がずっと続いて、無意識に張っていた緊張の糸が、そこで途切れたのかもしれない。

少し落ち着いてから、甘いものが食べたくなった。
せっかくだから、東京にしかないお店に行きたい。
それにいまチェーン店に入ったら、東京から帰った後もそのお店を見るたびに、今日のことを思い出してしまいそうだった。

個人経営の、こじんまりとしたおしゃれなカフェとかを探そう。そこで甘いものを食べて元気になろう。

気を取り直してまた歩き始めたものの、今度はめぼしいお店が見つからなかった。
もう少し、あと少し、あそこに見える角を曲がるまで、曲がったらまたその先まで。


どれだけ歩いても、
辺りは照明が暗いバーや高級そうなイタリアンばかりで入れそうになかった。
みじめな気持ちが簡単によみがえった。

都会

ただ一軒だけ、見慣れたTULLY'Sの店舗はあった。
でもなんだか意地が出てきて、何がなんでもチェーン店に入るものかと思った。

だけどどんどん身体は重くなる。
リクルート用のパンプスも手のひらに食い込む鞄も全部ぶん投げたい道路の真ん中に横たわりたいもう休みたい。
視界に入る高層ビル群を
まとめてなぎ倒したい。
こんな些細なことがなんでこんなに悲しいのかわからなかった。

裏通りに入ってようやく見つけた小さなお店も、軒並み臨時休業、貸し切り、定休日で、ここまでだめならもうなんでも良くなって、結局TULLY'Sに戻った。
看板のバナナパンケーキが美味しそう、と自分を励ました。

でも店内のメニューを見たらバナナパンケーキも売り切れになっていて、
あっもう今日ってそういう日なんだ、
なにもかもうまくいかない日なんだ、と呆然として、
つっかえながら残っているワッフルプレートチーズベリーを頼んだ
席で待っている間は、放心状態だったと思う。

運ばれてきたワッフルプレートは、でも、ちゃんと美味しそうだった。
厚みのあるワッフルの上にきらきらのベリーが載っていて、ふたつ折りになった生地の端からクリームがあふれていて、ちゃんと美味しそうだった。

ここで初めて飲み物を頼んでいなかったことに気づいた。
コーヒーのお店なのにごめんなさいと思ったけど、正直いま苦いものなんて1mlもほしくなかった。

コーヒー

でも、ワッフルプレートを運んでくれた男の店員さんが、控えめに言った。

「お食事と一緒にコーヒーのサービスがございますが、アイスとホット、どちらがよろしいですか」

笑われるかもしれないんだけど、マニュアル通りの対応だとしても、なぜかそれがものすごく嬉しかった。
ものすごく嬉しかった。
別にコーヒーが特別好きなわけじゃないのに。

さっきまでの疲弊と申し訳なさとこの嬉しさで表情のコントロールに苦労して、目をそらしながらホットをお願いした。

そのとき、
ああ私は甘いとか苦いとかじゃなくて、
チェーン店とか個人経営とか、
せっかくの東京とか思い出したくないとかでもなくて、
ただ誰かが私のために、ていねいにつくってくれたものが欲しかったんだと気づいた。


言葉にすると腑に落ちた。
今日のこの日、なにをやってもうまくいかないこの日は、コンビニスイーツじゃたぶん癒されなかった。
食べたいものを迷いながら注文して、
出来上がるまで席で待って、
整った盛りつけで慎重に運ばれてくるような、
アイスとホットはどちらがいいか尋ねてもらえるような、
「誰かが私のために、ていねいにつくってくれたもの」が欲しかったんだ。

ワッフルプレート

ふわふわのワッフルにそっとナイフを入れた。
小さなカップに注いでもらったホットコーヒーは、きりっと黒くて上品な感じがした。
苦いものなんて少しもほしくないと思っていたのに、甘酸っぱいワッフルプレートとはちょうど良い相性だった。
疲れ切った身体に残ってくれるように、ちょっとずつていねいに味わった。

なにもかもうまくいかない日には、自分で自分に優しくするのもむずかしいと思う。

だから、誰かのていねいを分けてもらうことくらいは、自分に許せるようになりたい。

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